店主の「好き」で違いをつくる。
共感してくれた人が
「わざわざ訪れる」花屋に。
名古屋市西区に店舗を構えるin bloom。「ロックな花屋」をコンセプトに掲げ、店舗での花の販売のほか、各地でのマルシェ出店にも力を入れています。2021年には、キッチンカーのように花を移動販売できる「フラワートラック」を考案。イベント会場や大型施設への出店も積極的におこなっています。
店頭にジューススタンドを設けたり、店舗の屋上で養蜂に挑戦したり、名古屋グランパスの試合会場でワークショップをおこなったりと、フラワーショップの枠を超えた取り組みを続けるin bloom。LENS ASSOCIATES(以下 LENS)ではそれらの企画・デザインを中心に、PRのサポートや新規発案に至るまで、in bloom全体のブランディングを手掛けています。
今回のゲストは、in bloom代表の菅野勇人さん。LENS ASSOCIATESのアートディレクター・原口が「とにかくアイデアマン」と話す菅野さんに、じっくりお話をうかがいました。
自分が好きな「ロック」をブランディングの軸に掲げ、他店との差別化を
原口:菅野さんとはかれこれ6年ほどのおつきあいになりますね。
菅野さん(以下 管野):現在の店舗に移転する少し前からなのでそれくらいになりますね。いろんなものをつくっていただいて、本当にありがとうございます。
青木:LENSとのおつきあいが始まったきっかけはなんだったんでしょうか。
菅野:LENSビルの近くに僕の行きつけの洋服屋さんがあったんですが、LENSビルの前を通るたびに「オシャレなビルがあるなー何の会社なんだろうなー」とは思っていて。洋服屋のオーナーと話していたら、その店の常連で僕も面識のある子の職場だと教えてもらって、LENSの存在を知りました。ちょうどウェブサイトを変えたいと思っていた時期だったので軽い気持ちで相談してみたら、予想以上にしっかりした提案をしていただいてびっくりしました(笑)
青木:予想以上に(笑)
菅野:LENSメンバーと会ったときの第一印象は「チャラい人たちかな」だったので、いい意味で裏切られましたね(笑)。でも本当に、そのときの提案が気に入ったから今もおつきあいが続いているんだと思います。店舗を構えているのでそれまでもいろいろなツールはつくっていたんですが、いわゆる「ブランディング」という切り口で提案していただいたことはなかったので。と言っても、当時は「ブランディングって何ですか?」という状態だったのですが。
原口:もともとのウェブサイトは白地のすごくシンプルなデザインだったんですよね。それを、黒をベースにした男性っぽくカッコいいデザインに変えませんかと提案をさせていただきました。菅野さんにヒアリングをさせていただく中で、他店との差別化を図るなら「ロック好き」という菅野さんの個性をもっと打ち出したほうがいいんじゃないかと感じましたし、それを足がかりに、新しいin bloomのブランディングを確立できればと考えてのご提案でした。
菅野:ひと目見てすぐに自分にぴったりだと感じ、とても気に入りました。移転を控えていたこともあって「次は自分が好きなようにやってみてもいいかな」という気持ちもありましたし。
花屋を始めた当初から、もっと気軽に花を贈る男性が増えてほしいという気持ちがあったのですが、一般的には花屋のお客さまって女性が多いので女性目線を無視するわけにはいかず、結果的に中途半端になっているような気がしていたんです。LENSの提案を受けて、自分が足を運びたいと思う花屋にすれば、自分と似たような、音楽好きな男性客が増えるかもしれないとの期待を抱きました。
菅野:話は前後しますが、鶴舞から中小田井に移転すると決めたとき、ほとんどの人からはネガティブな反応が返ってきたものの、(LENS ASSOCIATES代表の)矢野さんだけは「やってみないとわかんないですよ。逆にチャンスなんじゃないですか」と言ってくれて。周りのみんなが「そんなに人通りが少ないところで花なんて売れないよ」と口をそろえる中で、「わざわざ買いに来てくれる花屋をつくりましょうよ。ピンチはチャンスですよ」というようなことを言っていましたね。適当に言ってただけなのかもしれないけど(笑)
そうした話があったうえで新しいウェブサイトの提案を聞いたので、自分が好きだと思えるこの方向性なら、新しいお客さまを獲得できるかもしれないなと感じました。
欲しいアイテムをつくったら、コミュニケーションツールになった
菅野:移転してからはまずショップカードと、オリジナルTシャツもつくってもらいました。ギフトの企画や商品パッケージなど、なにか新しいものをつくるときにはすぐに原口さんに相談しています。
原口:菅野さんは、内容が固まる前に「どんなのをつくろうか」と相談してくださるので、毎回ワクワクしながら一緒に考えさせていただいています。中でも印象に残っているのはTシャツのデザインですね。つくっていてすごく楽しかったです。
菅野:1994年に開催された「Rock in Bloom」っていう架空のフェスで、僕のバンドがトリを飾った設定のスタッフTシャツですね。フジロックに着ていったら、知らない外国人に「売ってくれ!」ってしつこく言われて大変でした(笑)
青木:すごくカッコいい!これって店頭で販売してるんですか?
原口:それが、してないんですよね(笑)。僕も、お客さんに販売するのかなと思って「何枚発注しますか?」って菅野さんに聞いたら「5枚くらいでいいよ」って言われてめちゃくちゃ驚いたんです。
菅野:スタッフも着てくれないから、僕だけ着ています(笑)欲しいって声をかけられることもあるんですけどね。でもこのTシャツを着ているだけで会話のきっかけになりますし、コミュニケーションツールとしてすごく機能していると思います。
原口:それはすごくうれしいですね。ちなみに、ショップカードはご提案した2種類ともを採用いただきましたがどのように使い分けているんですか?
菅野:お客さんを見て、共感してもらえそうなほうをお渡ししています。原口さんからどちらか選んでくださいと言われたもののどっちもいいからもったいないなと思って2種類ともつくることにしたのですが(笑)、結果的に、コンセプトから外れることなく幅広いお客さまに向けたフォローができているのでよかったなと思っています。
原口:これまでに、ジューススタンド用のロゴ、ドリンクカップ、消臭スプレーのラベル、ワークショップで使用する台紙、ハンドクリームのパッケージなど、多岐にわたるデザインを手掛けさせていただきました。in bloomさんの仕事からはいつもすごく刺激を受けていますし、加えて、ちょっとしたことでもすぐに相談していただけることが本当にありがたいです。
菅野:プロがつくったものかそうでないかは、デザインに詳しくない人であってもぜったいにわかるはず。そして、プロがつくったものには説得力があると思っているんです。
例えば昨年つくったハンドクリームは店舗の屋上で養蜂したニホンミツバチのミツロウからつくられていますが、ものすごく貴重で少量しか採れないので、どうしても価格を抑えることが難しい。最近はよく「ストーリーでものを買う」と言いますが、「なぜこの価格なのか」の背景を理解してもらうための要素のひとつがパッケージやツールだと思うんです。
あとは、原口さんへの信頼度ですね。お願いすればなんとかなる!という気持ちが大きいです(笑)
原口:そう言っていただけて光栄です(笑)
初めてのPRが、東北でフラワートラックを出店するきっかけに
菅野:そうそう。そういえば、制作物以外にもLENSに感謝していることがあるんですよ。
2021年にフラワートラックをつくったものの、どうやったらいろんな人に知ってもらえるんだろうと思っていたときに、LENSがプレスリリースをつくってメディアにPRをしてくれて。最初は「意味あるのかな?」って疑ってたんですけど、いろんなメディアから取材依頼が殺到して驚きました。
実はあれはLENSのミスの代わりに補填してもらったものだったんですけど、ちゃんと未来につながる提案をいただけたことがすごいなと思っていて。結果的に、そのプレスリリースを機に出会った縁で東北に出店することもできましたし、とても感謝しています。
原口:その節はご迷惑をおかけし申し訳なかったです。
菅野:いえいえ。フラワートラックがこんなにすぐに日の目を浴びると思ってなかったのでうれしい誤算でした。
菅野:おかげさまで、マルシェやフラワートラックからin bloomを知ったというお客さまも多いですね。かつては女性7、男性3くらいだったお客さまの割合が、最近は半々程度になっています。「花には興味がなかったけどin bloomに興味があって来ました」と言ってくださるお客さまも増えていて、ブランディングの力を実感しています。
青木:菅野さんから見てLENSってどんな存在でしょうか。
菅野:以前は、デザイナーさんとかカメラマンさんとか、クリエイティブに関わる人ってちょっとお高く止まってるイメージがあったんですよね。完全に僕の勝手な偏見なんですけど(笑)
でもLENSとつきあってみたら、ぜんぜんそんなことはなくて。僕が好きなものをわかったうえでアイデアをたくさんくれる、ものすごくありがたい存在ですね。限られた時間、限られた予算でお願いするときも、まったくイメージと違うものや変なものは出てこないという安心感を持っています。
原口:「こんなことで相談したら悪いかも」と遠慮した結果、ブランドが毀損されてしまうのがいちばんもったいないと思っています。だからこそ、気軽に声をかけていただけること、長くしっかりとブランディングに関われていることがとてもうれしいです。
菅野:もともとはブランディングという言葉の意味もよくわからなかったけれど、LENSに出会って、自分が好きなものや「こうありたい」という姿勢を打ち出していくことが大切だと学びました。これからもいろいろと無理を言うかと思いますが、みなさんのアイデアに期待しています。
原口:僕も、菅野さんの次のプロジェクトを楽しみにしています。今日はありがとうございました!
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