次の100年に向かって。
社員みんなでつくりあげる
シヤチハタの100周年記念プロジェクト。

2025年に創業100周年を迎えるシヤチハタ株式会社と、LENS  ASSOCIATES(以下 LENS)との取り組みがスタートしたのは2023年春のこと。100周年を迎えるにあたり「会社主導ではなく、従業員が一丸となって100周年を盛り上げたい」との相談を受けたのが始まりでした。LENSが提案したのは、「ブランディングパートナー」として社内プロジェクトに伴走すること。さまざまな部署から集まったメンバーで構成された100周年記念プロジェクトチーム「飛躍隊」とともに、まずはシヤチハタという会社について掘り下げることからスタートし、100周年記念プロジェクトの目的・具体的施策の設定や、社内への周知をおこなってきました。

ブランディングパートナー契約とは…まだ正式に立ち上がっていないプロジェクトや模索中のプロジェクトに伴走しながらピントを合わせるための月額プラン。定期的なミーティングを通じて「目指すべきもの」を明確にし、ゴールを定める。必要に応じて、講演やワークショップをおこなうことも。

プロジェクトが走り出してから約1年。100周年記念事業の詳細が決まり、現在は、周年にまつわるツールや広報物の制作、イベントなどの準備が大詰めを迎えています。まずはこれまでのLENSとシヤチハタの取り組みについて、代表取締役社長 舟橋正剛さんと人財開発課 兼 100周年推進室の松田孝明さんに聞きました。

(左から)ブランディングディレクター  井戸田莉菜、代表取締役社長 舟橋正剛さん、人財開発課 兼 100周年推進室 松田孝明さん

「飛躍隊」から、ポジティブな影響を全社に波及したい

井戸田:最初に松田さんからご相談をいただいたときに「100周年をきっかけに、シヤチハタで働くひとたちの士気を上げたいんだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

舟橋社長(以下 舟橋):過去には毎年、最近は10年あるいは5年ごとに周年行事をやってきましたけれど、これまでは、国内外のお客さまーー取引先企業のみなさまをおもてなしするのが第一目的でした。それぞれの相手の好みに合わせて本当にきめ細かくもてなすので、すごく喜んでもらえて。

その一方で、社員のモチベーションを上げること、これまで以上に働きやすい環境をつくることが必要だとずっと考えてきました。だから、「100周年」を瞬間的なお祭りにするのではなく、周年を機に会社への誇りが持てるような取り組みにして、社員に喜んでもらいたいと考えました。

松田はなぜかいろんな人から相談を受けやすいキャラクターで、様々な部署の社員の気持ちを理解していたので、ずいぶん前からこの100周年に対する想いを松田に伝えていました。

松田さん(以下 松田):私はもともと商品企画部に所属していたので、いろんな部署の人たちと関わりながら仕事をする機会が多かったんです。

お客さまが喜んでくれる商品、お客さまが幸せになるような商品づくりをしたい、との思いを胸にずっと仕事に取り組んできたんですけど、私の企画が実現できているのは、素材選定や設計、生産技術、製造、生産や物流の管理、営業など、さまざまな業務の人たちのおかげなんですよね。仕事を重ねるなかでそのことに改めて気づくことができ、部署をまたいでのコミュニケーションを積極的に取るよう意識していました。ポジティブな意見がある一方で会社への不満や期待を耳にする機会も増え、徐々に危機感を抱くようになっていました。

舟橋:松田はとにかく面倒見がよくて、誰かから相談されたら夜中でも車を走らせて話を聞きにいく熱量を持っているんです。だったらその力を組織運営に生かしてもらいたいなと思って、私が信頼を置く緑谷という者と一緒に、人事部門で「よろずや」のような役割を担ってもらうことにしました(笑)。

松田:まずはいろんな人たちの意見を集めながら、働きやすさ向上を目的とした全社プロジェクトへ参加したり、労働組合の中央部に参加したり、部署をまたいだ勉強会をおこなったりしたのですが、マイナスをゼロにする取り組みだけでは足りないと考えるようになりました。そうした背景もあり、100周年記念プロジェクトでは、「関わってくれるみんながわくわくする企画」「飛躍隊から、ポジティブな影響を全社に波及できる取り組み」ができたらいいなという思いがあり、ぜひ担当したいと手を挙げさせていただきました。

指導役の緑谷も私も100周年記念事業で目指したい方向性は共通していたものの、どのように進めたらうまくいくのかとずっと悩んでいました。そうしたタイミングでLENSさんと話す機会があり、「伴走する」との考え方に興味を持ちました。コンサルティング会社のように「引っ張っていく」のではなくて、あくまでも主体は私たちシヤチハタだと。飛躍隊のメンバーが当事者意識を持って取り組むためにどのように伴走するか、という点を力強くご説明いただいて、まさにそれだ!と感じたのを覚えています。

もちろん、コンサルティング会社に引っ張っていただくことが正解だというケースもありますけれど、本プロジェクトでは、社員のみんなに「自分たちの力で成功させた」と思えることをゴールにしたかったんです。100周年という節目をきっかけとして「100年以降の未来を私たちがつくるんだ」という機運を高めるためには、プロジェクトそのものの進め方・内容が重要であり、それを「伴走」というかたちで実現するという提案は非常に心強かったです。

メンバーの「ピント」を合わせ、意見を出しやすい雰囲気に

松田:当初は、「飛躍隊」は中堅社員で固めようかなと思っていたんです。でも、このプロジェクトを立ち上げるにあたっていろんな立場の人と意見を交わしたところ、社歴に関係なく自分の言葉で会社について語ってくれる人がたくさんいることを知りました。ですので、さまざまな部署から選出するという点に加えて、年齢を問わず若手からベテランまで幅広くメンバーを募りました。

井戸田:「飛躍隊」が決定し、月2回の定期ワークショップがスタートしたのは2023年7月から。ワークショップがスタートするまでには100周年推進室のみなさんと事前に何度も話し合いをおこない、まずは12月までの半年間で、100周年記念事業が網羅されている状態まで持っていきたいとの目標をうかがいました。それに対してこちらからは、企画案を考えるにあたって、まずは現状の会社について理解する時間、会社の未来について考える時間をつくりませんかと提案しました。次の100年を考えるためには、そうした時間は必ず必要だと思ったんです。

プロジェクトワークショップは月2回。半年ごとに目標を定め、ミーティングの前後で進捗を細かくすり合わせながらプロジェクトを進行してきた。ワークショップには井戸田が毎回参加し、ファシリテーションや意見の取りまとめなどを担当。

松田:その考えに賛同するかたちで、最初の4回は会社について語り合う時間を設けました。プロジェクトが実際にスタートしてその様子を眺めるなかで、立場や社歴が違えば視点が違うんだと当たり前のことに気づき、この時間は確かに必要だなと実感することができました。いわば、「飛躍隊」の視点を合わせる時間ーー御社の言葉を借りるなら「ピントを合わせる」をまずしておかないと、プロジェクトの目的がぶれてしまう。加えて、この時間を通じて「飛躍隊がお互いにそれぞれの人となりを知れたことも大きなメリットだったと感じています。

舟橋:私はワークショップの中間発表のときに初めて顔を出したのですが、「会社をこうしたい」と自ら手を挙げる人がこれほど集まってくれて、生き生きと意見を出してくれることがうれしかったですし、それが周年と繋がるんだなと思ったらワクワクしたことを覚えています。

あと、最初に井戸田さん見たときに「あれ、うちにあんな社員いたっけ」って思ったんですよね(笑)。あまりに当事者意識を持ってワークショップに取り組んでくれていたから社員かと思いました(笑)。

松田:井戸田さんはシヤチハタにはない思考でさまざまなクエスチョンを投げかけてくれるので、特に年齢が近いメンバーには大きな刺激になっていると思います。実はプロジェクトが始まって2、3ヶ月が経ったころ、飛躍隊へワークショップのフィードバックを含めて井戸田さんへの印象をこっそり聞いたことがあって…

井戸田:そうなんですか、知らなかったです!内容がめちゃくちゃ気になります…

松田:ポジティブな意見ばかりでしたよ!シヤチハタのことをシヤチハタ社員よりも考えてくれてるという意見や、視点が違う意見から学べることがたくさんあるとか。若手の意見に共感してくれるからうれしいという声もありましたね。

井戸田:安心しました(笑)ありがとうございます!

「安定」を武器に、チャレンジできる社風を生かそう

松田:シヤチハタという会社はやはり歴史がありますので、安定を求めて入社した、という声は多いんです。近年「安定志向」という言葉がポジティブな意味で使われることは少ないように思うのですが、私は、安定は誰もが求めるものだとも思っているんです。毎日を不安なく過ごしたい、家族を幸せにしたい、という気持ちを実現するために、安定は絶対に必要なもの。だから、安定そのものが悪いのではなくて、「安定を求めて変わらないこと」がよくないのだと感じています。

印鑑を取り巻く環境が変わっているのは社内外の誰もが知っていることですし、数年前から、社長が音頭を取ってさまざまな変革を進めています。本プロジェクトではまず会社を理解すること、会社の未来について考えることからスタートしましたが、安定とチャレンジは両立できるんだと言語化できたことに非常に意味があったと思います。「シヤチハタは、自分たちのやりたいことをちゃんと口に出して行動できる会社だと感じて入社しました」と話すメンバーもあり、だから行動しないともったいないよねとみんなで語り合う姿がすごく印象的でした。

井戸田:回数を重ねるたびに「どう行動するか」までのイメージがどんどん具体的になっていますよね。例えば最初のころは「会社のここを変えたいよね」「ここに課題感があるよね」で終わっていた会話が、「どうやったら変えられるんだろう」と、自然にいろんなアイデアが出てくるようになったと感じています。もちろんすぐに解決できる課題ばかりではないので、アイデアが出るたびいろんな壁にぶつかるんですけど、「じゃあこうしてみたらどうだろう」と、諦めずにみんなで考える文化が自然に生まれているような気がします。

松田:100周年記念プロジェクトの具体案に落とし込む前、プロジェクトの途中で全社アンケートを取ったのですが、それも「飛躍隊」からの発案でした。予想以上にアンケートが集まり、100周年に対するみなさんの熱い思いを知ることができましたし、アンケートを取ったことによって、100周年記念プロジェクトを身近に感じてもらうステップにもなりました。

あくまでも飛躍隊は「社員の代表」という位置付け。このメンバーだけで完結するのではなく他の従業員全員を巻き込んでいきたいという目標は当初から掲げていたので、そのための提案がチームから挙がってきたことが感慨深かったです。

舟橋:我々のように、中小企業だけれどほとんどの国民が社名を知ってくれているという会社は珍しいと思いますし、それはとても恵まれていること。それがいわゆる「安定していそう」というイメージにつながっているのだと思うんですけど、同じことだけをしていればいい、という時代ではないんですね。例えば、これまではメーカー発信で「こういう商品があれば便利でしょ」と提案をしてきたけど、本当は、それが便利だと思ってくれるお客さまは実はいないかもしれない。商品企画もビジネスのあり方も、考え方を含めて変えていかなければいけないと強く思っています。

だからもちろんベテランの知識量、現場解決能力には大きな信頼を置いているけれど、一方で、若い人たちの感性や意見が正しい場合も往々にしてあると思うんです。本プロジェクトが、部署や世代を超えてそうしたコミュニケーションを醸成できる場になったというのは、会社の未来にとって非常にポジティブだと感じます。

トライアンドエラーを繰り返しながら、シヤチハタらしい周年事業を

松田:実際、100周年記念事業という枠にとどまらず、会社の仕組みやルールなど、今後のシヤチハタの在り方についての議論も交わされています。これまでもそうした場がなかったわけではなかったのですが、これまでと異なるのは「本人たちが本当に実現しようと思って発言している」ということだと思います。

また、最近ではメンバーから「松田さんは働きすぎないでください」と言われているんです(笑)。以前まではプロジェクトの事前準備をすべてこちらが用意しなければと思っていたけれど、今では「あれが必要だと思ってやっておきました」と、先回りして動いてくれるメンバーが何人もいます。来期も続けたいと思ってくれているか飛躍隊のメンバーにアンケートを取ったところ、ほぼ全員が「継続で関われるのならぜひ携わりたい」と回答してくれており、本人たちにとっても何か得られるものがあったのかなと思うととてもうれしいですね。

一方で、「飛躍隊」は通常業務と平行して本プロジェクトに参加してくれていますので、こうした取り組みを今後も継続していくためには負担が大きくなりすぎないような工夫が必要だとも感じています。参加メンバーのやる気や熱意に頼ることが当たり前化してしまうのはこわいなと…。まだまだ改善が必要ではありますが、今後もみんなで悩みながらベターな方法を探っていければと思いますし、それが周囲にもいい影響を与えてくれることを期待しています。

井戸田:改めて振り返ると、やはり松田さんはじめ運営側が、「飛躍隊」ひとりひとりが自分にできることを考えて動けるよう意識づけしてきたことが成功の要因のひとつだと感じています。私は伴走するという立場でさまざまなサポートをさせていただきましたが、もしそこがずれていたら今のようなポジティブな空気感を醸成するまでにもっと時間がかかっていたかもしれません。

今は企画の実行に向け、新たにチームを分けて具体的に動き始めた状態。来年までまだまだ気が抜けませんが引き続きよろしくお願いします。

松田:これまでは運営側や井戸田さんが引っ張っていくというイメージでしたが、実行フェーズに移行するにあたり、それぞれのチームにリーダーを立ててみんなに託していく方法で進めることになりました。「ぜひ僕に任せてほしい」と手を上げてくれる若手もいて、心強いかぎりです。正直なところ心配な気持ちもありますが(笑)、まずは各々が思うやり方で動いてほしい。これからもトライアンドエラーを繰り返しながら、シヤチハタらしい100周年記念事業を実現できればと思っています。

舟橋:社員と家族が集まれるイベントの開催は、私のリクエストを汲んでくれたのかなとちょっと心配しているんですが(笑)、人数の把握や移動手段の手配など、面倒なことがたくさんあるのに本プロジェクトのメンバーが実行委員会となってさまざま動いてくれていることが本当にうれしいですね。100周年に関して数多くの企画が走っており、現場で動いてくれているみなさんは苦労も多いと思いますが、「これらを企画したのは社員なんですよ!」と言えることが非常に誇らしい気持ちです。

松田:イベントは全社アンケートでも多くの方が望んでいることが分かり、「飛躍隊」からも是非やるべきだ!!と声があがりました。社長のリクエストは誰にも伝えていなかったので一致した!と驚きました(笑)。

井戸田:これからますます忙しくなると思いますが、引き続きよろしくお願いします!LENSは100周年にまつわるクリエイティブも担当させていただいていますので、100周年記念事業が終わってから改めて振り返りをさせていただけたらうれしいです。本日はありがとうございました!