答えにたどり着くまでの
「プロセス」こそが
ブランディングの大きな価値

2025年、JR千種駅前に開校したフリースクール「ステラBASE」。さまざまな事情を抱えた子どもたちに新しい居場所と学びの可能性を提供するというミッションを、視覚的・言語的に表現するため、LENS ASSOCIATES(以下 LENS)にご依頼をいただきました。
「子どもたち一人ひとりの未来を支える場所を作りたい」と語る鶴原さんとともに、思いを形にしたプロセスを振り返ります。

学校に馴染めない子どもたちのための居場所づくり
鶴原さま(以下 鶴原):私たちは元々、発達障害のあるお子さんやグレーゾーンのお子さん、不登校の方など、学校や学習面で困りごとを抱えるお子さんのための学習塾「ステラ個別支援塾」を運営していました。個別指導を通して子どもたちの学習をサポートしていましたが、学習面だけではなく、もっと多面的に子どもたちの成長や可能性を広げられる場所が必要だと日々感じていました。
当初はフリースクールではなく新しい枠組みの教室をオープンしたいと考えていたのですが、リサーチを重ねるほど実現が難しいことがわかりました。そこで、フリースクールという枠組みを使いながら、中身は私たちならではの新しいものを提供しようと決め、LENSさんにご相談をさせていただきました。
以前別の事業所を立ち上げた際にブランディングの重要性を実感していましたので、新しいスクールを立ち上げるなら、最初からしっかりとしたブランディングが必要だと考えていたんです。
井戸田:プロジェクトがスタートした際、まずはフリースクールの定義や位置づけについて私たちが理解するための時間をしっかり取っていただけて、それが非常にありがたかったです。なんとなくのイメージは持っていましたが改めて聞くと知らないことばかりでしたし、現状を知ったからこそ、なぜ鶴原さんがフリースクール事業に臨むのか、といった背景もクリアになりました。
松井:どういう子どもたちに向けて、何を大切にして作るのか。単に学校に行けない子の居場所というだけでなく、そこでどんな価値を提供するのか、どんな未来につなげていくのか。本質的な部分からコンセプトを掘り下げると同時に、ネーミングの検討に入る際には、「ステラ」も含めたさまざまな案を提案させていただきました。
鶴原:新しいことを始めるなら既存の「ステラ」という名前に囚われずに、まったく新しい名前でスタートする可能性も探ってみたいという思いがあり、LENSさんには「ステラ」にこだわらない案も出してほしいとお願いしました。本当にたくさん提案いただいて、 その節はありがとうございました。

松井:「ステラ」がイタリア語であるというところから、イタリア語で別の言葉を使った案や、まったく新しい造語など、あらゆる角度からピンとくるものがないか時間をかけて探しましたが…検討を重ねるにつれ、ますます「ステラ」に込められた価値観や思いが見えてきた感覚があったんですよね。
鶴原:さまざまな選択肢を検討した上で、あらためて「ステラ」を選んだことには大きな意味があったと思います。もともと「一人ひとりが星のように輝く」という意味を込めて名付けた名前ですが、惰性や便宜的な理由ではなく、一度立ち止まって多角的に考えた結果、やはりこの名前が私たちの理念をもっともよく表現できているという確信が持てました。
いろいろな可能性を探った上で「やっぱりステラだよね」と確信を持って決められたことは、LENSさんと一緒にとことん向き合えたからこそだと感じています。
松井:「ステラ」がすでに築いてきた価値を大切にしながらも、新しいブランドであることがわかるよう「BASE」を組み合わせました。「BASE」という言葉には、基盤や基地、拠点といった意味があります。子どもたちの生きる力の「基盤」を作るという思いと、子どもたちにとっての安全な「基地」になるという二重の意味を込めました。
鶴原:「ステラBASE」というネーミングとほぼ同時に完成したタグライン「生きてくベースをつくってく」は、「私たちが大切にしたいことを端的に表現してくれている!」と驚きました。これだけでもLENSさんに依頼した価値があったなと感じましたね。
松井:そう言っていただけて本当にうれしいです!
制作過程を進めるなかで「ステラBASE」らしさを確立
井戸田:ロゴデザインはどのように決まっていったのでしょうか。
鶴原:ロゴもさまざまな方向性のデザインを出していただいて、どれも素敵だなと思いましたね。なかでも、「S」と「B」を組み合わせたデザインに一番心ひかれました。
松井:印象に残っているのは、鶴原さんからの「モチーフとして星を取り入れることはできないか」というご提案でした。確かにそれができたらさらにいいデザインになると確信しましたし、自分たちで思いつきたかった!とも(笑)。とはいえそこからがけっこうたいへんで、角度や形を細かく何度も調整していきましたね。太さや角度、丸みなど、細部にこだわって完成させました。
カラーについても慎重に検討しました。複数のバリエーションを提案し、最終的には、明るく爽やかな青とピンクの組み合わせに決まりました。対象が小学生低学年から中学生までと幅広いため、年齢を選ばない色合いを意識しています。
鶴原:「ステラ」の意味である「星」のイメージも入れたい。でも露骨に星の形を入れるのではなく、提案いただいたデザインを生かしながら、さりげなく星があらわれるようにできないかな?と思ったんです。LENSさんにはご苦労をおかけしましたが、デザインが徐々に形になっていく過程は本当に面白かったです。何度も調整を重ねて、「S」と「B」の文字が並んでいるなかに、視点を変えると星のようにも見える、そんな奥行きのあるデザインになりました。
加えて、このロゴは人々が集まっている様子にも見えるなあと思っているんですよ。交流や集合、コミュニティという意味合いも込められていて、本当にぴったりなロゴをプレゼントしていただいたなと思っています。
松井:ありがとうございます。ロゴデザインを担当した合田が喜びます!



フリースクールの先にある構想と挑戦
鶴原:その後手掛けていただいたウェブサイトに関しては、オープン前で実際の活動内容をまだ見せられないなかで、ステラBASEが目指す方向性や理念などをうまく表現してくださったなと思っています。
特に「About us」に並んだタグラインとステートメントを見たときはグッと来ました。「学校に行かない、行けない。どうして?と聞かれても、わからなかったり、理由はひとつじゃなかったり」という言葉から始まるステートメントが、私たちの思いそのもの。フリースクールに来る子どもたちのみならず、その保護者の気持ちにも寄り添った内容になっていると感じます。

鶴原:タイトなスケジュールで進んだプロジェクトでしたが、「ステラBASE」という名前とロゴが決まり、タグライン・ステートメント、ウェブサイトも整ったことで、私たち自身の中で「事業としての輪郭」がはっきりしてきたように感じましたし、何をする場所なのか、どんな価値を提供するのかが明確になり、この事業に向かうモチベーションを高めてもらった感触がありました。
実際ステラBASEに来られる子どもたちやご家族に対しても「生きていくベースをつくる場所」というコンセプトは非常に伝わりやすい。また、「何をする場所なのか」「どんな子どもたちが対象なのか」といった質問に対して、ブランディングを通じて整理された言葉で答えられるようになったことも、このプロジェクトを通じて得られた財産のひとつです。
松井:実際に「ステラBASE」が子どもたちの居場所として機能しているという話を聞くと、本当にうれしいです。デザインが単なる見た目だけでなく、理念や価値を伝えるツールとして役立っているのであれば、デザイナー冥利に尽きますね。
井戸田:最後に、ステラBASEの今後の展望やブランディングについてお聞かせください。
鶴原:ステラBASEの活動は順調に進んでいますが、私たちの構想はここで終わりではありません。現在、フリースクールを卒業した子どもたちのための通信制高校の設置も検討しています。
子どもたちの成長に負けじと、私たちも成長していかなければ、という気持ちを常に抱いています。フリースクールから通信制高校、そして将来的には就労支援まで、一人の人の人生に長く伴走できるような仕組みを作っていきたいですね。
また、今後はグループ会社全体としてのブランディングも課題だと考えています。個別指導塾の「ステラ個別支援塾」、フリースクールの「ステラBASE」、さらに就労支援事業なども抱えていますが、さまざまな事業体をどのように統合的に表現していくか。それぞれの独自性を保ちながらも、グループとしての一貫性を持たせるためのアドバイスもいただけるとうれしいです。
井戸田:複数の事業体を持つ企業グループのブランディングは、LENSが得意とする分野です。それぞれの事業体の独自性を尊重しながらも、全体としての理念や方向性をどう表現するのか。ぜひまたお気軽にご相談ください!
鶴原:こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。