制作過程とデザインで
「おもしろいほうへ」
を体現する

今回のLENS ASSOCIATES カスタマーレビューは、トヨタ自動車株式会社ビジョンデザイン部(VID)をお迎えし、前・後編にてお届けしています。

【前編はこちらから】
「部署ブランディング」でスキルも背景も異なるメンバーをひとつに

前編では、LENS ASSOCIATES(以下 LENS)とともに「部署ブランディング」に挑戦し、ワークショップを経て「おもしろいほうへ。」というタグラインを決定するまでの過程を振り返りました。

後編では、そこから先のブランドアピアランス策定、5つのバリュー策定、組織ロゴの誕生秘話、さらに、本プロジェクトが組織に与えた変化についてうかがいます。

左から、LENS ASSOCIATESブランディングパートナー 佐田颯汰、トヨタ自動車 ビジョンデザイン部 清水愛二さん、LENS ASSOCIATESブランディングディレクター井戸田莉菜、トヨタ自動車 ビジョンデザイン部 中嶋孝之部長、トヨタ自動車 ビジョンデザイン部 金田恵梨子さん、LENS ASSOCIATESアートディレクター澤田星、LENS ASSOCIATESアートディレクター 三浦保高

ブランドアピアランスをつくる過程が、未来を考えるきっかけに

井戸田:お披露目会でタグライン・ステートメントを発表したのち、いよいよビジュアル展開に入っていくわけですが、まずは「部署の見た目」を定義するところからスタートしました。それが「ブランドアピアランス」の策定です。

佐田:ブランドの「外観」「見た目」「印象」を指す言葉として最初は「ブランドパーソナリティ」という言葉を使っていたんですが、議論を重ねるうちに「人格」より「見た目」のニュアンスの方が伝わりやすいということで、「ブランドアピアランス」に変更しました。

中嶋さん(以下 中嶋):「VIDってどんなキャラクターだと思いますか」と聞かれても、最初はピンと来なかったですね。でも、考えてみれば人間にも性格があるように、組織にも個性があるはず。それを言語化する作業だと理解しました。

佐田:ブランドアピアランスを策定するにあたっては、VIDで働くみなさんの考えを知ることからスタートしました。VIDってどんな人格?どんなキャラクター?というアンケートをおこない、回答いただいたデータから分析を進めていきました。

金田さん(以下 金田):たくさんの人に回答いただけるように、アンケートの設置場所も工夫しましたよね。みんなが必ず通る場所で、立ち止まって考えやすい2箇所に大きなパネルを掲示しました。

清水さん(以下 清水):アンケートの質問項目が面白かったですよね。「自分たちが現在もっている特性」についてはふだんから考えていることだと思うのですが、「理想的な未来のメンバーがVIDに求める特性」「他部署メンバーがVIDに求める特性」「パートナー企業がVIDに求める特性」などは、こうした機会がないと確かにイメージしない項目だなと思いました。

佐田:外からの視点も含めることで、より客観的にVIDの姿を捉えられると考えました。自分たちだけの視点だと、どうしても内向きになってしまいますから。

中嶋:回答数も予想以上に集まってうれしかったですね。みんな真剣に考えてくれていることが伝わってきました。
アンケート結果を分析してみてまず驚いたのは、「好奇心旺盛」というキーワードが圧倒的に多かったこと。現在の特性でも未来への期待でも、これが一番票を集めました。つまり、VIDの核になるDNAなんだなと強く感じる結果となりました。

澤田:5つの質問項目それぞれに集まったキーワードを抽出しながらブランドアピアランスのベースをつくっていったのですが、結果を分析し、FIZZY(フィジー)、FLEXIBLE(フレキシブル)、AUTHENTIC(オーセンティック)の3つの要素を策定しました。

佐田:なかでもFIZZYの要素は、すべての設問において高いスコアを獲得しました。「挑戦的」「革新的」「独創的」といったキーワードが選ばれつつ、でも他のキーワードを見ていくと、単純に元気なだけじゃない複合的な組織だということも見えてきました。

中嶋:意外だったのは、「専門的」「誠実」「知識豊富」といったAUTHENTIC要素が、「他部署やパートナーから期待されている視点」では非常に高くなっていたこと。外から見るとVIDは頼りにされる存在だし、そうありたいと思っているんだなと。

金田:印象的だったのは、「洗練」「上質」「エレガント」といったキーワードも支持を集めたことです。みんな遠慮して大きな声では言わないけど、本当はセンスがあることもアピールしたいというか(笑)

佐田:そうした「控えめな願望」を洗い出せたのも、アンケートを実施した甲斐があったなと思います。票数は少なくても、そういう要素を求めている人がゼロではない。だからこそ、それもブランドアピアランスに反映させようと決めました。

清水:また、現在の自分たちと理想の姿との間にギャップがあることもわかりました。現在は「洗練」が8票だったのに、メンバーが求める理想では26票。もっと洗練された存在でありたいという願望が見えました。

佐田:逆に「力強い」「忍耐強い」「たくましい」といった要素はあまり票数が伸びませんでした。VIDらしさとは違うと感じている人が多いというあらわれなんでしょうね。

金田:アンケートを実施している間、みんなが真剣に考えてくれている様子が印象的でした。普段は口に出さないけれど、自分たちの組織への思いってちゃんとあるんだなと。

中嶋:このプロセスで改めて気づいたのは、デザイナーやエンジニアをはじめ「作り手」って自分を客観視するのが苦手だということです。普段は自分の作品を批評される立場だから、自分たちのことを褒めることに慣れていないんですね。

三浦:だからこそ、「本当はこうありたい」という願望の部分を大切にしたいんですよね。現在の姿だけでブランドアピアランスを決めてしまうと、成長の余地がなくなってしまいますから。

井戸田:ブランドアピアランスと並行して、VIDの行動指針となるバリューも策定しました。ワークショップで出てきたいろんな価値観を、日々の意思決定や評価の基準になる指針としてまとめたい、というのがねらいでした。

佐田:バリューの策定にあたっては、5つのグループに分けてヒアリングを実施。「普段どんなことを大事にして仕事をしているか」「どんな時にやりがいを感じるか」といった具体的なエピソードを集め、LENSコピーライターの古屋にまとめてもらいました。

井戸田:そこから見えてきたのが「VVV(VIDファイブバリューズ)」です。「Very Good!『いいね!』から、はじめよう」「Venture! やってみよう。何でも。何度でも」「Voluntarily!『おせっかい』でいこう」「Variety! みんなちがって、みんなすごい」「Visionary! ぜんぶシゴトに。ぜんぶ楽しく」の5つです。

清水:特に「おせっかい」というキーワードは、VIDらしさの象徴だなと思いました。相談事や困り事に対して、頼まれなくてもアイデア出しをしてくれる人が本当に多い部署なので。

中嶋:このバリューのいいところは、どの職種の人でも、どの年代の人でも共感できることです。デザイナーにもエンジニアにも企画担当にも当てはまる。部署の多様性を活かしながら、みんなが同じ方向を向けるようになりました。

佐田:バリューを策定する過程で、改めて「取りこぼさない」ことの大切さを実感しました。一部の声の大きい人の意見だけでなく、普段あまり発言しない人の思いも含めて言語化できたと自負しています。

組織ロゴに適したデザインとは?最終的に決まったのは「自由に変えられる顔」のロゴ

井戸田:ブランドアピアランスとバリューが固まったところで、いよいよロゴ制作に入りました。

澤田:ロゴの考え方の方向性はVIDさんと合同でブレストをおこない、そのなかで大きく3つの方向性に絞りました。それらの方向性に沿って具体案に落とし込んで提案しました。組み合わせ可能なパーツで展開するアイデアや、シンボルとタイポグラフィーを分けて考える案など、さまざまな方向性のアイデアを提示させていただきました。

三浦:VIDさんへの提案前、社内で話し合うなかで、「VIDの文字そのものがロゴになっている方が使いやすいんじゃないか」という意見が出てきたんだよね。シンボルとVIDという文字が別々にあるより、一体化している方が後々展開しやすいと。
そうした流れで、澤田さんが「VID」というアルファベットを分解したら顔っぽいデザインがつくれるんじゃないか?と発見して、そのアイデアはかなりおもしろいなと感じました。

澤田:あれは本当にひらめきが降りてきた瞬間でした(笑)。みんなで話している中で「これいけるかも」と思って、急いで形にしました。

金田:最初の提案時から本当にいろいろな種類の方向性を提案いただいて、最初は別の案に表が集まっていたんですよね。でも心のどこかでずっと「顔のロゴ」が気になっていたんです。中嶋にロゴの進捗を聞かれたときにも「顔のロゴがなんか気になるんですよね」と言っていて(笑)

中嶋:僕も、確かにいいなと思いつつもポップすぎるかな?という懸念はありました。ただ、VIDらしさを感じるなとは思っていて、他の案の可能性も残しつつ、ブラッシュアップをお願いしたいとお伝えしました。

澤田:そこから最終的なデザインに落ち着くまで、何度もフィードバックをいただきながらブラッシュアップを重ねました。最初の提案では輪郭がありすぎて「顔感」が強すぎたり、逆に抽象化しすぎて「VID」が読めなくなったり。

三浦:毎回の打ち合わせで「これは違う、これも違う」って言いながら、でもみんなで「顔の方向」は諦めないで進んでいく過程が印象的でしたね。

金田:LENSさんには本当に根気よく付き合ってもらいました。「もうちょっとカッコよくできませんか」「シンプルにしつつも顔に見えるようにしたい」とか、結構矛盾した要求をしていたと思います。

澤田:でも、そうしたフィードバックのおかげで最終的にみなが納得できるロゴにたどり着けました。VIDのみなさんからの視点でしっかり意見を言ってくれたからこそ、納得のいくものができたんだと思っています。

井戸田:毎回の議論でちゃんと前に進んでいる実感がありましたね。完成したロゴを見た時は「ああ、これを目指していたんだな」とストンと腹に落ちました。

中嶋:たしかに、最終版を見たときには当初の不安感はなくなっていましたね。また、LENSさんが用意してくれた使用例も決め手になりました。こういう風に使えばかっこよくなる、こういう場面では親しみやすくなる、という具体例を見せてもらって「これならイケる!」と思いました。

井戸田:完成したロゴやバリュー、ツールが実際に使われるようになって、どんな変化がありましたか。

中嶋:まず、部署内でのコミュニケーションが活発になりました。2週間に1回発信している「VIDニュース」でも新しいグラフィックを使うようになってから、参加率が上がっているんですよ。
また、他部署から「こういうことをうちもやりたい」という相談が来るようになりました。

清水:日常的にロゴやステッカーを使うことで、「自分はVIDの一員なんだ」という意識が強くなりました。今まで個別に仕事をしていた感じから、チーム感が生まれたように感じますね。

金田:私自身、このプロジェクトを通じて部署への帰属意識が強くなりました。みんなで作り上げたという実感があるからこそ、愛着も生まれるんだなと。

井戸田:1年にわたるプロジェクトを振り返って、いかがでしょうか。

中嶋:ブランディングって、結局は「人」なんだなと実感しました。ツールも大切だけど、それをみんなで作り上げていくプロセスそのものが価値を生む。「取りこぼしのない」アプローチの重要性を改めて感じました。

三浦:改めて「ゼロから一緒に作っていく」という今回のプロジェクトは、LENSにとって理想的なやり方だと感じました。完成したものを提案するのではなく、プロセスを共有することで、より深い化学変化が起きることを体感できましたね。

中嶋:このプロジェクトの成果は、タグラインやロゴだけではありません。みんなで一つの方向を向けるようになった、その組織文化の変化こそが一番の価値だと思います。「おもしろいほうへ。」というタグラインと5つのバリューのもと、これからも新しい挑戦を続けていき、他の部署や組織のお手本になれるように頑張りたいと思います。

井戸田:今回は貴重な機会をいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いします!