会社のことを深く理解しながらも
外側の視点を持って導いてくれる
今や欠かせないパートナー

ハイドロコロイドばんそうこう「キズクイック®︎」をはじめ、いびき防止のおやすみテープやプロ仕様の手荒れ保護フィルムなど、身体に貼付する製品を次々と世に送り出してきた東洋化学株式会社。ブランディングパートナーとして関わってきた井戸田が、開発部長の岡さんとともにこの1年の取り組みを振り返ります。

ブランディングパートナー契約とは…まだ正式に立ち上がっていないプロジェクトや模索中のプロジェクトに伴走しながらピントを合わせるための月額プラン。定期的なミーティングを通じて「目指すべきもの」を明確にし、ゴールを定める。必要に応じて、講演やワークショップをおこなうことも。

(左から)ブランディングディレクター  井戸田莉菜、東洋化学株式会社 開発部長 岡哲平さま。

本当の課題、目指す姿を見つけるため「ブランディングパートナー契約」を提案

岡さま(以下 岡):当時、「絆創膏以外にもさまざまな製品をつくっている会社であることを広めたい」「それぞれの製品のデザインテイストがバラバラなので、共通したブランド観を醸成したい」といった課題を抱えており、LENSさん含め複数社に相談をさせていただきました。さまざまな提案をいただいたものの、どの具体案も腑に落ちきらず…。ですが、LENSさんはその時点でのデザイン案や企画にプラスしてブランディングパートナーの提案があり、それが契約の決め手になりました。

井戸田:提案前にお話を聞かせていただいた際、抽象的な話が多いなと感じたんです。もちろん、今ある情報をもとに提案することはできるけれど、そのまま提案するのもなにか違うのではとの思いを抱きました。

ですので、ご要望をいただいていた方向でのブランディング提案はいったんしますけれど、もっと手前の段階から一緒にディスカッションを重ね、よりよい打ち出し方を考えるお手伝いをさせていただけないでしょうかとブランディングパートナー契約を提案させていただきました。

キズぐちに集まる体液の「キズを治す成分」をゲル状で保持することにより、痛みを緩和し、皮膚本来の自然治癒力を高めキズを早くキレイに治す「キズクイック®︎」(左)と、同様のテクノロジーに加え0.15mの薄さと特殊なエンボス加工で目立ちにくく違和感のない使用感を実現した「キズクイック®︎fit」(右)

岡:僕はもともと、人に何かを決められるのが好きではない性格なんです。相手がコンサル会社であれデザイン会社であれ、「こうしなさい」と言われるのがすごく苦手で(苦笑)

それはやっぱり納得感がないからだと思うんですけど、そもそもの前提として、互いの情報量が均一じゃないと思ってるんですよ。もちろんこちらは四六時中自分の会社のことを考えているわけで、そのすべてを相手に伝えるのは現実的ではありません。だから、何かを提案してくれることへのリスペクトがある一方で、彼ら彼女らは限られた情報のなかで導き出した「ベター」を提案しているだけで「ベストではないでしょう」という気持ちがありました。ですので、「まずはゼロベースで、一緒に伴走していろいろ決めていきましょう」というブランディングパートナー契約の提案を聞いたときに、これはよさそうだと直感しました。

井戸田:ブランディングパートナー契約の提案に関しては、製品のブランディングはもちろんですが、会社全体の伴走者というイメージでかかわらせてもらうことが多いことと、東洋化学さんともぜひそうした関係を築いていきたいといった話をさせていただいた記憶があります。

岡:それも惹かれたポイントのひとつでした。もともとは「東洋化学」という企業をしっかりとブランド化させて、その傘の下で各製品を展開していくというイメージを持っていたんです。ただ、すぐにそうした地位を築くのは困難だと理解していましたので、まずは技術的にいちばん自信のある「キズクイック®︎fit」を会社の顔として育て、その知名度を武器に他の製品にも広げていけたらとイメージしていました。ですので当初は、「キズクイック®︎fit」のリブランディングからスタートするのがいいのかなと思っていたんです。

井戸田:契約前に改めてそのあたりの背景をお聞かせいただきつつ、第一回目のミーティングでは、Hi-AT分析※を用いながら東洋化学の会社の強みを洗い出すところからスタートしました。各部署の課長さんたちも含めたみなさんと意見を交わす中で、「キズクイック®︎ブランド全体を育てるためにも、まずはキズクイック®︎のブランディングに着手しましょう」との結論に。このミーティングを設けたことで、全員が納得感を持ってリブランディングのプロジェクトに向かえる素地ができたように感じています。

Hi-AT分析…LENS代表の矢野まさつぐが考案した思考ツール。4つの質課に答えるだけで、課題を発見し、やるべきことが明確になる。

岡:「キズクイック®︎fit」は技術的にも自信のある製品でしたので、通常の「キズクイック®︎」よりもプロモーションに力を入れて売り出し、会社の柱にしたいと考えていました。けれど、改めて事業全体で考えたときに、キズクイック®︎fitが上、キズクイック®︎が下、という考え方ではなく並列で打ち出していくほうがキズクイック®︎全体としてのブランド成長に寄与するのではという答えにたどり着き、まずはキズクイック®︎パッケージのリデザインから着手することに。技術に自信があるからこそ、新しい技術で完成したキズクイック®︎fitのほうがすごい製品なんだと思い込んでいたけれど、それは売り手側の独りよがりだったなと気づくことができました。

会社の強みについて考える機会そのものが初めて、という社員も多かったと思うんですが、聞いてみれば自分にはなかった意見がたくさん出てきたことも新鮮でした。

井戸田:最初の3ヶ月間のミーティングを通じて「体と心に痛みを感じている人が、明るく前向きな暮らしを送るために『ささいなエール』を送っている会社です。」というコピーにたどり着けたことがうれしかったですし、その後のプロジェクトにも大きな影響を与えていると感じます。

背景を理解する人がハンドリングしてくれるから、信用して受け入れられる

岡:定期ミーティングを通じて見えてきたことは他にもたくさんありましたし、LENSとの壁打ちが新しい気づきにつながっているとの実感は間違いなくありますね。加えて、2週間に1回、決まったサイクルで「ブランディングについて考える」という時間を設けることの重要性も感じています。

ブランディングを考えるという脳のスイッチを入れて、プラス、違う角度から意見をくれる井戸田さんみたいな人がいるという環境は、当初予想していた以上にポジティブな効果を生んでいます。そして、回を追うごとに井戸田さんの理解度が高まっているのもありがたい。これまで、何かを発注するときにはイチから説明するのが当たり前だったのですが、最近の井戸田さんは会社のどんな話をしても普通についてきてくれる。いちいち説明しなくてもわかってもらえるって、最高です(笑)

やっぱりうちの会社って製品に対してものすごくプライドを持っているので、そこを理解したうえでブランディングに落とし込んでもらえるのはすごくうれしいです。これはLENSさんに限定した話ではないのですが、取引先を選ぶうえで僕が大切にしているのは「東洋化学のファンでいてくれるか」ということ。LENSさんと取り引きをスタートして改めて、表面上の情報だけを拾って一方的に提案される関係性はちょっと難しいなと思いました。

井戸田:現場の方たちとたくさんコミュニケーションを取らせていただいて、本当にみなさん会社への愛があるんだなあと感じています。会社の強みを洗い出したときも、各部署からのアピールが止まらなくて!開発の苦労話や裏話、あれだけの熱量に触れたら誰もがファンになっちゃうと思います。一方で、だからこそデザインへの落とし込みの難しさも実感しています。パッケージのスペースだけじゃ伝えたいことが入り切らないんですよね。

岡:全然足りないですね(笑)

井戸田:でもそうした背景も全部踏まえた上で、どの情報を取捨選択し、あくまでもユーザー目線を意識してどうパッケージデザインに落とし込むか…この1年東洋化学さんとミーティングを重ねてきたからこそ自信を持って提案できる内容になったんじゃないかなという気がします。

岡:そうなんですよね。最初に触れた「互いの情報量が均一じゃない」という話に通じるんですけど、少しヒアリングをしただけで「この情報を入れましょう」「こうしたほうがいいです」と言われると「ちょっと待ってくれ、その裏付けとなる理由は?」と思ってしまう。入れたい情報は山程あって、それを全部載せられないことはわかっているけれども、それをどう取捨選択するか…が肝なわけじゃないですか。それはデザインの力でもあるけれども、会社そのものや開発の背景を理解している人がハンドリングしてくれるからこそ、こちらも信用して受け入れることができるように思います。

表現が合っているか自信がないですが…ブランディングパートナー契約で会社のことを理解してもらったうえでそれをブランディングないしデザインに落とし込むという作業は、すごく「ガバナンスが効いているな」って思うんですよ。もちろん互いの理解度が100になることはないけれど、逆に、100になってしまったら外部パートナーのメリットがなくなってしまう。「うちの会社のことをめちゃくちゃ知っているけれど第三者視点を持って意見してくれる」という存在が、すごくいい方向に寄与していると感じています。

井戸田:東洋化学さんは「なんでもいいからやっておいて」「情報は渡すからあとはお任せで」という文化じゃないからこそ、ブランディングパートナー契約がうまくハマったんだと思います。そうした依頼がラクだと思う制作会社も少なくないと思うんですけど、LENSの場合、そういう仕事よりも「一緒に考えてよりよいものをつくりたい」というスタンスが強いので会社同士の相性がいいのだと感じています。未来を描くのはあくまでもクライアントが中心ですが、目指すべき未来がよりクリアになるために伴走させていただくのがブランディングパートナー契約の目的。東洋化学さんとLENSは、互いの歩み寄り度合いがとても心地いいですね。

ミーティングのたび小さな成果が積み上がり、新しい欲求が生まれる

岡:実は今まで、ここまで力を入れてパッケージをつくったことがなかったんです。基本的にデザインは外注で、どこまでこだわるかは担当者の裁量次第。それを今回、ものすごく時間をかけていろんな部署と調整をしながら完成させたことで、「手間をかける」ことはものすごく重要だと再確認しました。苦労したからこそ「売りたい」との気持ちが強くなりますし、やっぱり、気持ちがこもった製品は売れる。製品を世に送り出す責任として、これぐらい手間暇をかけるべきだなと改めて実感しました。

井戸田:具体的にパッケージデザインのプロジェクトが走り始めてからアートディレクターとデザイナーもチームに加わったのですが、私とは違って新鮮な視点で取り組めたメリットもあったように思います。例えば「そもそもなんで白く膨らむんですか?」など、初めて手に取る消費者が疑問に思うところにも気がついたり。加えて、制作中は何度もドラッグストアに足を運んで競合製品のパッケージや売り場全体の見え方を研究していました。

キズクイック®︎の次はECサイトへのチャットボットの導入やキズクイック®︎fitのリデザインが控えていますが、最終的には、製品を好きになってくれた人が東洋化学という会社を知って、会社のファンになってくれるようなブランディングを手掛けられたらいいなと思っています。とはいえブランディングって本当に一朝一夕にできることじゃないので、これからもその時々でLENSに求められる役割を担えたらと願っています。

岡:ブランドを消費者に浸透させるには時間がかかるということは理解していたのですが、ブランディングに向けて社内の考えを統一させるというステップからも時間が必要だとの学びは新しい発見でした。実は当初、ブランディングに取り組むにあたっては、業務としてそんなに時間がかかるとは予想していなかったんです。もちろん時間をかければいいという話でもないんですけど、一方で時間が納得感につながる部分もあるので重要な要素のひとつではあります。

LENSとのミーティングは、その都度小さな成果物があるのがいいんですよね。ゴールに近づいている実感が持てる、目標に近しいものが見えるという感覚がありつつ、いきなり大きな方針がバチーンと決まる、という場“ではない”ことがすごくいいと思っています。

というのも、現代ってものすごく不確実性の高い状態だと思っていて。現状を鑑みて「最終的にこれが正しい状態です」と定義していても、定義そのものが変わってしまうこともじゅうぶんにあり得るわけです。だから、方針が決まりきってるわけではないけど、迷子ではないと自信が持てる状態が継続できていることが重要なのかなと。そうした場を繰り返すうち自分や社員のなかから「次はあれがやりたい」という欲求が生まれ、今回のパッケージデザインのようにこうしてカタチになっていくのは、非常にバランスがいい取り組みだと感じています。

岡:まあでもやっぱり、最終的には人ですよね。僕がいま一緒に取り組んでいる人たちを見回してみると「人として尊敬できる」と思える人ばかり。井戸田さんももちろんですが。

井戸田:ありがとうございます!うれしいです。

岡:一方で、契約を結ぶのはある程度の規模感の会社だけ、とも決めています。最近は優秀なフリーランスの方が多く活躍していることはもちろん知っていますが、僕たちは今後10年20年を見据えた事業活動をしているので、同じ視座で話ができることが大前提。となると個人や数人規模の会社との取り引きは難しいなと思っていて、存続をめざしている会社組織であることはとても重要です。

だから、LENSさんの規模感って僕にとっては本当にちょうどいいんですよ。願わくば、これ以上大きくなってほしくない(笑)組織化されすぎていない部分というか、井戸田さんを筆頭に、属人的な部分が大きいこともすごく魅力だと思っています。

いずれは自分が現場を離れるときがやってくると思いますが、LENSさんのような外部パートナーがいるのはとても心強いです。これまでの背景を知らない若手が入ってきたり、考えが行き詰まってしまったりしたときに、うちの会社のことを理解してくれていながらもさまざまな視点からジャッジしてくれる最後の砦がLENSさん。そうした頼れる存在が会社の外にいてくれることは非常に安心感があります。

井戸田:ブランディングという視点で、部署を超えて意見を交換したからこそ見えてきた強みは本当にたくさんあって、外に発信しきれていないのがもったいないと思っています。今後、採用活動やインナーブランディングにも展開していけたらうれしいですね。

岡:ブランディングパートナー契約は会社の歴史を振り返るいい機会にもなりました。創業者の思いやモノづくりへの真摯さに触れ、改めて、東洋化学ってすごいブランドだなと再確認できました。2024年6月でちょうど50周年を迎えますが、これからも東洋化学という会社を存続させ、50年後に100周年を見届けるのが個人的な目標です(笑)

井戸田:わたしもぜひ一緒に見届けさせてください!本日はありがとうございました!